奈倉有里・逢坂冬馬著『文学キョーダイ!!』(文藝春秋)を読む。
奈倉有里さんと逢坂冬馬さんは姉弟だ。
姉の奈倉さんはロシア文学の翻訳者、弟の逢坂さんは小説家。
私はこのお二人を知らなかったが、作家姉弟の対談が面白そうだったので読んでみた。
歴史学者の父を持つお二人は、本に囲まれた家庭で育つ。
好きなことを自由にやらせるという家庭の方針のもと、奈倉さんも逢坂さんも結果的に「自分の好な道」へ進む。
子ども時代の話、学生時代の話、いかにして文学の道に進んだのかなどの対談。
それぞれの文学に対する考え方、文学との関わり方など、たいへん興味深かった。
そして、奈倉さんも逢坂さんも、社会や社会問題に対して、歴史に対して、政治に対して、しっかりとした考えを持っている点に好感が持てた。
メディアのあり方、ファシズムの危険性、どのように社会がおかしくなっていってしまうのかなどを話している部分が特に印象に残った。
以下は逢坂さんの発言部分(P221)。
「パンとサーカス」という古代ローマの言葉がありますよね。政治的関心を失った民衆には食糧と娯楽さえ与えておけば、支配はたやすいという。いまの日本は国民にパンを与えないけど、サーカスは民営化されているからテレビで見てよという感じ。いまはなんとかかんとか言論の自由を手に入れられているんだけれども、ひょっとしたら放送法をめぐる解釈の変更と国民の無関心によって失われていく過程にあるかもしれない。最悪の事態が進行することを恐れていますね。
この部分はまったく同感。
国民の多くがWBCや大谷翔平選手の活躍ばかりに気を取られている裏で、国民の主権を奪うようなことが次々と決まってしまっているのだから。
国民が政治に興味を持たず、メディアがちゃんと機能しなくなれば、自分たちの首を絞めるような社会になってしまうのだ。
そうなってしまえば、スポーツ観戦も「推し活」もできない世の中になってしまう。
実際、今の日本はそうなりつつあると感じている。
いろいろと考えさせられる本だった。