第173回 河野啓著『ヤンキー母校に恥じる』

河野啓著『ヤンキー母校に恥じる』(三五館シンシャ)を読む。

この本は、義家弘介氏をめぐるドキュメンタリー作品だ。

著者は、北海道放送で「ヤンキー母校に帰る」などのドキュメンタリー番組を作り、義家弘介氏をスターにした。

義家氏は、母校の教師を辞め、国会議員になる(2024年、衆院選で落選し、政界引退)。

著者は、自分が義家氏をスターにしてしまったことを後悔し、この本を書き上げたそうだ。

本書では、国会議員になる前を「ヨシイエ」、国会議員になってからを「義家氏」と区別する。

数多くの取材対象から分かるのは、義家氏は、すぐにキレ、嘘つきで、平気で他人を傷つけ、裏切る人物だ。
関わる人たちを悲しくさせる。
当然、関係は長くは続かず、彼の周りから人は遠ざかってゆく。

それでも、教員時代のヨシイエ氏には、まだ魅力があったかもしれない。
しかし、国会議員になって、変節し、どんどんと人相が悪くなっていった。

元タレントや元スポーツ選手が、知名度を利用され、政治家になり、顔つきがどんどん悪くなる有名人が多い。
義家氏はその典型だと思う。

とてもおもしろかったが、もやもやするものが残る本だった。

第172回 『金子兜太戦後俳句日記 第1巻』

『金子兜太戦後俳句日記 第1巻』(白水社)を読む。

俳人の金子兜太(1919~2018)は、俳壇の枠をこえて活躍した人。
豪快で、愛嬌があって、見ていておもしろい俳人だった。

戦争中は戦地(トラック島)に送られ、地獄を経験したという。
その経験から、生涯、反戦の思いは強かった。

『金子兜太戦後俳句日記 第1巻』は、1957年から1976年、兜太37歳から56歳までの日記である。

日記では、兜太が、実はとても繊細な面を持っていたということが分かる。
また、当時の俳壇の人間関係や組織の複雑さが書かれていて興味深かった。

『金子兜太戦後俳句日記 第1巻』は450ページで9,900円。
かなりの値段だが、それだけの価値はある。

通っている図書館には第2巻もあったが、しばらく間をおいてから借りようと思う。

彎曲し火傷し爆心地のマラソン  金子兜太

第171回 新聞の魅力

以下は下野新聞(2025年4月17日)に掲載された拙文です。

ネット時代の今 新聞の魅力実感

新聞を読む人が減っている。若い世代だけでなく、子育て世代も読んでいない人が増えている。交流サイト(SNS)全盛の現代、「ニュースはネットやSNSで十分」と考える人が増えているのだろう。そんな時代だが、私は新聞が好きで、下野新聞を含めて二つの紙の新聞を購読している。図書館へ行って、購読紙以外の新聞をチェックすることもある。

ネット時代の現在、速報性という点では新聞はネットにかなわない。しかし、新聞には「記事の信頼性」がある。「見出し」を眺めるだけでも勉強になる。同じニュースを新聞各社がどのように扱っているかを見比べるのもおもしろい。文化面や生活面を読めば教養も身に付く。

12日まで「春の新聞週間」だった。多くの人に新聞の魅力を知ってもらい、新聞を手にとってほしい。

第170回 作家の自筆原稿

以下は下野新聞(2025年5月9日)に掲載された拙文です。

作家の自筆原稿自体が芸術作品

4月11日付本紙に、夏目漱石の自筆原稿が発見されたという記事があった。とても興味深い内容だった。私は作家の自筆原稿を見るのが好きで、文学館や作家の企画展に行くことが多い。

文学館や企画展では、ガラス越しとはいえ、明治や大正、昭和の作家の自筆原稿から

執筆に対しての熱い思いを受け取ることができる。一番印象に残っている自筆原稿は、村上春樹さんのデビュー作『風の歌を聴け』だ。1990年に、東京池袋の東武百貨店で開催された「昭和の文学展」で見た。原稿用紙に万年筆できちょうめんで整った文字で書かれていて、今でも脳裏に焼きついている。

作家の自筆原稿は、それ自体が芸術作品だ。現代の作家さんは「手書き派」は少数だそうだ。自筆原稿を見る楽しみがなくなってしまうのは残念だが、それも時代の流れなのだろう。

第169回 今村翔吾著『教養としての歴史小説』

今村翔吾著『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)を読む。

著者は歴史小説家の今村翔吾さん。
今村さんは、小学5年生の時に池波正太郎の『真田太平記』を読み、それ以降、歴史小説・時代小説を読み漁ったという。
歴史小説・時代小説の読書量は、現役作家の誰にも負けないというようなことを書かれていた。

歴史小説・時代小説の魅力、歴史、作家論など、たっぷりと楽しめる一冊だ。
歴史小説・時代小説好きの私としては、たいへんありがたい本だった。

この本を手がかりに、未読の作者の本も読んでみたいと思う。

第168回 野﨑まど著『小説』

野﨑まど著『小説』(講談社)を読む。

この小説は、今年の本屋大賞の3位になった作品。

主人公の内海集司は子供の頃から本が好きで、ひたすら本を読む。
友達は一人もいなかった。
そんな少年だったが、小学六年生のときに、外崎という少年と友達になる。
外崎は、内海集司の影響で、本の世界にのめり込んでゆく。
その後、彼らは小学校の近くに住む作家の「髭先生」と知り合い、交流を深めてゆく。

物語の途中までは本当におもしろかった。
その後ファンタジー色が強くなって、正直なところ、ついていけなくなった。

個人的には、途中までの雰囲気で結末までいってほしかったと思う。

「小説を読む」ということを突き詰めた小説。
いろいろと考えさせられる小説ではあった。

第167回 3年がたちました

ブログ「塾長の気まぐれ日記」を始めて3年がたちました。

当ブログの第1回目は2022年5月2日です。
当塾のホームページをリニューアルしたのを機に、ブログを始めました。

3年間で167本書きました。

内容は、読んだ本の感想、観た映画やドラマの感想、新聞に掲載された拙文、野球観戦記が多いです。

ときどき、「読んでいます」とか「おもしろいです」などと感想をいただくことがあります。
励みになります。
本当にありがとうございます。

当ブログの感想は、当塾の「お問い合わせフォーム」かLINEなどでお送り下さい。

今後とも、よろしくお願い申し上げます。

みなさま、すばらしいゴールデンウィークをお過ごし下さい!

第166回 最高の試合

4月27日、ライオンズ対オリックス戦を観戦。
今年最初の公式戦生観戦だ。

緑豊かなベルーナドーム(埼玉県所沢市)は、新緑のこの季節が一番美しく、野球観戦には最高なのである。

久しぶりに試合開始から終了まで観戦する。

この日の試合も、ルーキーの渡部聖弥選手が躍動した。
5回裏の段階で、4割6分2厘、得点圏打率6割だった。
この日の成績は、3打数2安打、2打点と大活躍だった。

6回まで、ライオンズは2-0と勝っていたが、7回表にオリックスの中川圭太選手の2ランホームランで同点になってしまう。

9回裏のライオンズの攻撃は見応えがあった。

オリックスの投手は守護神マチャド。

5番の栗山巧選手は、レフトフライで1アウト。

1アウト走者なしで、6番の外崎修汰選手がレフトへのヒットで一死一塁。

7番の元山飛優選手が送りバントを決めて2アウト2塁。

8番の古賀悠斗捕手のところで代打、平沼翔太選手。

球場にはチャンステーマ4が流れ、大いに盛り上がる。

その平沼選手に対してオリックスは申告敬遠で二死一二塁。

9番の滝澤夏央選手のところで、西武のレジェンド、今年24年目の中村剛也選手が代打として登場する。

中村選手は、2ストライク1ボールから、レフトへのサヨナラツーベースでライオンズの勝利。

もちろん、この日のヒーローインタビューは中村選手だ。

後日知ったのだが、この日、中村選手の盟友である栗山選手(プロ24年目)が3000塁打を達成した。
プロ野球で64人目、球団生え抜きでは中村選手に次いで2人目の偉業達成だそうだ。

久しぶりにサヨナラゲームを生で観ることができて、最高の一日だった。

ライオンズのファンクラブに入っていると、土日祝日の本拠地開催時に、選手のピンバッチをもらうことができる。
ピンバッチは黒い袋に入っているので、どの選手のものが入っているか、開けてみるまでわからない。

自宅に戻って、袋を開けてみると中村剛也選手のピンバッチだった。

第165回 山田洋次監督『家族はつらいよ』

山田洋次監督『家族はつらいよ』を観る。

この作品は2016年に劇場公開された。

結婚50年を迎える夫婦(橋爪功さんと吉行和子さん)の熟年離婚騒動。
長男夫婦が西村雅彦(現、西村まさ彦)と夏川結衣、長女夫婦が中嶋朋子と林家正蔵、次男カップルが妻夫木聡と蒼井優の各氏。
そしてちょい役で笑福亭鶴瓶師匠。
超豪華キャストだ。

山田洋次監督といえば『男はつらいよ』だが、『家族はつらいよ』の作品中に『男はつらいよ』が小道具として出てきて、くすりと笑える。

安定感のある「ヒューマンコメディー」で、最初から最後までたっぷり笑えた108分だった。

やはり、映画はコメディーが一番だと再確認した。

『家族はつらいよ』は続編もあるようなので、そちらも観てみようと思う。

 第164回 永井紗耶子著『女人入眼』

永井紗耶子著『女人入眼』(中央公論新社)を読む。

ときは鎌倉時代、物語は京の六条殿に仕える周子の視点で進む。
朝廷と幕府の絆を強固にするために、源頼朝と北条政子の娘である大姫入内が計画される。
女性の視点での鎌倉政治史といったところだろうか。

政治や人間関係が複雑、しかも私があまり好きではない鎌倉時代の政治史なので、読み終えるのにかなり時間がかかってしまった。

物語の中で一番印象に残ったのが、北条政子の「毒親ぶり」である。

子ども(大姫)の気持ちはまったく考えず、自分の考えや価値観を押し付けるのだ。
読んでいて怒りを感じた。
大姫が気鬱になり、悲劇的な結末を迎えてしまうのも当然だ。

NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」をもう一度視聴してみよう思う。

それにしても、鎌倉時代の政治史は血なまぐさくて陰惨で、なかなかしんどいのである。