第97回 永井紗耶子著『きらん風月』

永井紗耶子著『きらん風月』(講談社)を読む。

主人公は江戸時代中期の文化人、栗杖亭鬼卵(りつじょうていきらん)。
私は、この小説を読むまで鬼卵のことは知らなかった。

鬼卵は、60歳を過ぎてから精力的に戯作を発表した人物で、その交友関係、文人墨客たちとの関係は広い。
作品には、絵師の円山応挙や読本作者の滝沢馬琴、儒学者の海保青陵など、歴史の教科書に出てくるような人物も出てくる。

老中を辞め、家督を譲った松平定信が、お忍びで掛川にいる鬼卵を訪ねてくる。
そして、鬼卵と定信は長時間語り合う。
それは、鬼卵のこれまでの人生を振り返ることでもあった。

松平定信は、老中となり、寛政の改革を行った。
定信が、綱紀粛正や出版統制をしたことで文化人を追い詰め、文化を潰し、庶民を萎縮させたということは、中学校の歴史でも勉強する。

鬼卵は、眼の前の人物が松平定信であると知った上で(本人は認めないが)、定信の行った政治を痛烈に批判する。
定信はむっとするものの、最後は苦笑いをしつつ、鬼卵と別れる。

作品中、きらりと光る言葉がたくさんあった。
以下、3つほど挙げておく。

「縁いうもんは繋がるけれども切れるのも一瞬。それを繋ぎ続けられる者は信じるに足る人やて、お互いに思ってるからや。そして、信用は金にも勝るからな」

「暇を潰すだけで生きるには、人生は長い」

多くの出会いが、いつも背を押してくれた。

『きらん風月』、ハードカバーで300ページ以上の作品であったが、あっという間に読んでしまった。
星5つ(5個中)の作品である。
永井さんの他の作品も読んでみたいと思う。

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