第69回 山田太一著『空也上人がいた』

山田太一著『空也上人がいた』(朝日新聞出版)を読んだ。

主人公は、つい最近まで特養老人ホームで働いていた27歳の青年。
本人が大きなミスをしてしまい、自ら仕事を辞めてしまう。
そんな時、元同僚で40代半ばのケア・マネジャーの女性に新しい仕事を紹介される。
紹介されたのは、81歳の男性の個人介護。

読み始めると、ストーリーは興味深く、深い人間観察があり、最後まで一気に読んでしまった。
山田太一さんが描く、登場人物たちの独特の会話もとても心地よかった。
改めて、山田さんは真のストーリーテラーなのだと思った。

「空也上人がいた」というタイトルがすごい。
「空也上人」は、平安時代中期の僧で、京都の六波羅蜜寺にある「木造空也上人立像」が有名である。
高校で日本史を勉強した人なら誰でも思い浮かべることができると思う。
私は2回ほど実物を見たことがある。
粗末な草履を履き、口から6体の小さな阿弥陀仏を吐き出している木造は有名だ。
その「木造空也上人立像」の絵が、本のカバーに描かれている。
そして、この木像が物語の鍵となっているのだ。

山田太一さんがこの小説を書かれたのは2011年、70代後半だ。
しかし、20代の作家が書いたといってもおかしくないくらい若々しい作品なのだ。
驚きの結末に、人間というもの、生きるということ、死ぬということなど、いろいろと考えさせられた。

山田さん脚本のドラマはたくさん見てきたが、小説は数えるほどしか読んでいない。
山田さんの小説も積極的に読んでみようと思った。

2学期期末テストの結果について

12月15日(金)に田野中学校の期末テストが終わりました。
これですべての中学校の2学期期末テストが終わったことになります。

現在、当塾には、益子中生、田野中生、七井中生、真岡東中生の生徒が通っています(中学部)。
今年の2学期期末テストは各中学校の実施日がばらばらだったため、「2学期定期テスト対策学習会」は3回に分けて実施しました。

田野中以外は成績表が出たため、塾生たちが成績表を持ってきました。
全体としては、ほとんどの塾生が前回の定期テストから順位を上げています。
「学年順位で10位以上あがった」という塾生が6~7人いました。
入塾してから結果が出るまでの期間は個人差があります。
しかし、休まずに塾に通っている塾生は必ず成績が上がっています。
結果が出るまでに時間がかかっている子は、その期間は辛いものです。
そのときに、他人と比較するのではなく、「昨日の自分と比べて成長できているか」という視点を持ち、自分を信じて努力することが大切です。
2学期もあとわずかです。
塾生たちには一日一日、やるべきことをしっかりとやって欲しいと思います。

第68回 額賀澪著『青春をクビになって』

額賀澪さんの『青春をクビになって』(文藝春秋)を読んだ。

主人公は35歳のポスト・ドクター、専門は国文学(古事記)である。
彼は大学の非常勤講師をしているが、学内事情から任期内にもかかわらず次年度の契約を打ち切られてしまう。
次の職場をどうしようかと途方に暮れていた矢先、専門が同じで10歳年上の先輩が大学の研究室から貴重な文献(古事記)を盗んで失踪してしまう。

かなり以前から、大学の博士課程を出ても安定した職を得られないことが問題になっている。
「高学歴プア」という言葉があるくらいだ。
とくに人文・社会科学系を専門とする研究者が厳しい。
大学教員として正式採用されるのは、ほんの一握り。
多くの人が人生を棒に振ってしまっているのが現状だ。

仕事を失い、研究者の道を諦めるという選択をする主人公。
当然、物語の内容は明るくはない。
しかし、不思議と暗い気持ちにはならないのだ。
自分の「青春」を終わらせる、「青春」に決着をつける主人公。
心地よい読後感だった。

額賀さんの他の作品を読んでみたいと思った。

第67回 山田太一さん、逝く

11月29日、脚本家の山田太一さんがお亡くなりになった。
89歳だったそうだ。

山田太一さんは大好きな脚本家だった。
私が、山田さん脚本のドラマをちゃんと見たのは「ふぞろいの林檎たち」だ。
これは高校生の時に再放送で見た。
その後、5年おきくらいにDVDを借りてきて見ている。

「ふぞろいの林檎たち」は、おちこぼれ大学生たちの青春群像劇。
出演は、中井貴一、時任三郎、柳沢慎吾、手塚理美、石原真理子の各氏。
ドラマでは「いとしのエリー」をはじめとしたサザンオールスターズの曲が効果的に使われていて、本当に印象に残る作品だった。

山田さんの脚本は、セリフの一つ一つに重みがあり、人間の葛藤と屈折が、深く、リアルに描かれている。
そして、弱くても一生懸命に生きている人たちに対して、優しい眼差しがある。

山田さんを偲んで、私が所有している「岸辺のアルバム」のDVDを見返し、「ふぞろいの林檎たち」の文庫(脚本)を読み返そうと思う。

山田さん、たくさんの素敵な作品を残してくださって、本当にありがとうございます。

合掌

第66回 父の四十九日法要

この前の日曜日に、父の四十九日法要があった。
青空の中、この時期としては少し暖かく、とても良い四十九日法要を行うことができたと思う。

今年の冬、父の認知症が急激に進行し、次々と問題が起こった。
このままでは家族の方がおかしくなってしまうということで、入院していた病院を退院した日に介護施設に入所した。
入所中に肺炎を起こし、大きな病院に入院。
回復したと思ったら再度肺炎を起こし、そのまま亡くなってしまった。
数日後には退院することが決まっていた。
享年79歳。

父が最初に肺炎を起こした時、担当の医師に「これから肺炎を繰り返す。いつ亡くなってもおかしくない」と言われていた。
そう言われていたので覚悟はしていた。

父の認知症の急激な悪化、入院、施設に入所、肺炎で入院、死去。
その後、葬儀の準備、位牌や仏壇の手配と魂入れ、死後のさまざまな事務的な手続き、四十九日法要の準備と、しなければならないことが一気に押し寄せてきて、本当に大変だった。
四十九日法要が終わって、やっと一息ついたところである。

それでも、まだまだすべきことはある。
人が亡くなるということは本当に大変だ。

仏教の教えでは、死後四十九日目に、仏様のいる極楽浄土へ行くのだそうだ。
父はちゃんと行けたと思う。
ご住職のお話では、死者は極楽浄土へ行くと、きれいな蓮の花が咲く池の周りで、毎日、阿弥陀様のありがたいお話を聞いているのだそうだ。

ご住職をはじめとして、葬儀、四十九日の法要などでお世話になった皆様、病院や施設のスタッフの皆様、そして生前父と関わりのあった皆様、本当にありがとうございました。

境内にある銀杏の木

第65回 「平和の俳句」鑑賞

毎年8月に東京新聞で「平和の俳句」が発表されている。
読者に「平和の俳句」の投句を呼びかけ、俳人の夏井いつきさんと作家のいとうせいこうさんが選んだ句が、毎日1句、計30句発表されるのだ。
今年の応募は昨年を524句上回り、計6748句だったそうだ。
今年は私も投句した。

国語と社会の勉強を兼ねて、塾生全員に今年の「平和の俳句」30句を紹介し、鑑賞してもらった。
以下で塾生の鑑賞文を紹介する(提出してくれた塾生のみ)。
日付は入選句の新聞掲載日。塾生の名前はペンネーム。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃など、残念ながら世界は平和ではない。
このような時期だからこそ、多くの人に平和について考えて欲しいと思う。

なお、「平和の俳句」は、東京新聞のホームページ30句ですべて見ることができます。
興味のある方は「平和の俳句2023」で検索して下さい。

先に射つ前に射たれる水鉄砲
2日  米谷 隆(75) 石川県小松市

水鉄砲は水を使った遊びなので、平和だと感じることができる俳句だと思った。(H)

教室にはだしのゲンがいない夏
5日  立部 笑子(49) 愛知県日進市

私はたぶん尚朋スクールに通わなければ「はだしのゲン」を知らなかったと思う。「はだしのゲン」が教室に置いてあった時代と今は変わってしまったのだと思った。(Y.K)
                                                              

黒い影アイス片手の六日かな
7日  渋谷 晴(15) 東京都大田区

8月6日に広島に原爆が落とされて、人が一瞬で黒い影に変わってしまった。それを見て残酷だと思った。(のりのりまさのり14さい)

ひらひらと戦車の前を舞うアゲハ
10日  百田 吉江(82) 福井県若狭町

前は平和だったのに、時代とともに争いが起きている中、アゲハは時代が変わってもいつも通り平和に飛んでいるんだなと思いました。(ちぃ山)

戦争は鉄の塊より冷える
11日  佐藤 蒼真(16) 愛知県豊橋市

戦争というものはとても悲しく、冷たいものということがこの句を見て改めて理解できた。(K) 

皆の者銃を握るな手を握れ
20日  寺沢 大登(15) 名古屋市西区

戦争で負けた日本、銃や武器ではなく、みんなで力を合わせて協力していこうという思いがあるのかなと思った。(ほげ)

今の時代に合っている。戦争をしないで、助け合おうという思いが伝わってきた。(星)

戦争を知らない世代の人が平和を望んだ俳句になっている。(せっきー)

戦争なんかしてないで、みんなで仲良く手をつないでほしいという思いにすごく共感しました。(ガク)
                                        

大切な大事なものは平和です
24日  岩崎 岳(35) 東京都国立市

言っていることにすごく共感できた。大切なのは生きること。平和であればみんな幸せだと思う。生きるためには幸せが必要。(アリ)

おかあさんアンパンマンならとめられる?
26日  松尾 実香子(34) 愛知県西尾市

とても平和だと思っていいなと感じた。(ゆうこる)

テレビの中では悪者に必ず勝つアンパンマン。小さな子の一言が平和を呼びかけているようで、それを俳句にしたのがおもしろいと思った。(湯)

小さい子がかわいらしく言っているようでかわいい。(アキ)

まだ戦争のことを知らない小さな子が、お母さんに言っていると考えると悲しい気持ちになった。(白)

小さい子がおかあさんに「アンパンマンなら戦争をとめられる?」と聞いたのかと思うと、悲しい気持ちです。アンパンマンじゃこんな大きな戦争はとめられないと思います。
(クマ)

子どもがおかあさんに、アンパンマンなら戦争をとめることができるかと聞いている。その質問に対して、お母さんはアンパンマンでも戦争はとめられないと思っている。
(ゆゆこ)

秋の三者面談会について

現在、本年度第2回目の三者面談会中です。
本年度は、中学3年生とそれ以外の時期を分けて行うことにしました。
すでに中3生の面談は終わりました。
中3生の保護者の皆様、お忙しい中、ご参加いただきましてありがとうございました。
中学1・2年生の面談は18日から始まります。
有意義な時間にしたいと思います。
何卒よろしくお願い致します。

第64回 卒業生からのLINE

先日、卒業生のAさんからLINEがきた。

東京の大学で充実した学生生活を送っているようで何よりだ。

当塾の後輩たちへのメッセージも書いてくれていた。
是非、塾生たちに紹介したいと思ったので本人にお願いしたところ、紹介すること、ブログに載せることを快く承諾してくれた。

というわけで、ブログでも紹介します。


こんばんは。

お久しぶりです。

寒暖差も大きく、秋を感じられる季節になってきましたね🍂

わたしは秋学期に入り本格的に英語を学んでいます。

帰国子女や純外国人ばっかりのクラスでディスカッションをしたり、英語の動画を見てその内容について話し合ったりとハイレベルなことをしています。正直、ついていくのに精一杯です。英語で話そう、自分の力で話そう、と思っててもなかなか上手に話せません。

ですが、授業を通して成長と発見を繰り返していけたらいいなと思っています。

東京の生活は充分慣れました。

栃木の方が暮らしやすいなと感じることが多いですが、東京は東京なりに良いところがたくさんあります。

アクセスが良かったり、私の好きな喫茶店や古着屋さんがあって毎日新しい発見ばかりです。

これからどんどん寒くなっていきます。中学生たちが高校受験の季節になっていきます。それに伴って、塾長、奥さんが大変な時期になってくると思いますが、体調にお気をつけて頑張ってください。

塾生徒の皆さんが志望校合格するのは、先生方の支えがあってこそです。でも、本人たちが頑張らないと結果には結びつきません。塾生徒の方が頑張る❗️という気持ちが一番大切なのかなと、中学3年の受験期を通して学びました。


塾生徒の皆さんが志望校合格できることを心から願っています。 学生時代は、本当にたくさんの出会いがある。
自分のやりたいことを追求する時間もある。
また、東京は一生住むとなるとお金がかかって大変だが、学生時代を過ごすには最高の場所だ。
私の後輩でもあるAさんには、引き続き充実した学生生活を送って欲しいと思う。

第63回 谷中散策

10月7日(土)、谷中界隈を散策してきた。

第1回谷中川柳大会に応募するため、実際に谷中を散策してきたのだ。

東京の台東区にある谷中は、江戸や昭和の雰囲気が残っている場所である。

JR日暮里駅を下車。
谷中は「猫の街」と言われるだけあって、「日暮里駅」の文字盤には猫の耳、足跡、尻尾がある。
谷中銀座には猫の置物がたくさんあった。

また、この辺は俳句の句碑がたくさんあるようで、日暮里駅のすぐ近くの本行寺には、種田山頭火の句碑があり、それを見ることができたのは収穫だった。

本行寺
ほつと月がある東京に来てゐる 種田山頭火

今回一番行きたかったところが、「夕やけだんだん」。
日暮里駅の西口を出て御殿坂を上がっていくとある。
実際にこの場所に立つと、世界中から人が集まってくるのがわかる。
本当にすばらしい風景だ。

外国人観光客が多かった。
中国語、韓国語、英語など、さまざまな言語が飛び交っていた。

にぎやかな谷中銀座を通り、少し静かな「よみせ通り」を歩く。
延命地蔵尊があり、お年寄りが参拝していた。
私も参拝する。

日暮里駅に戻るため来た道を歩き、途中左に曲がると「岡倉天心記念公園」があった。
公園のあちこちに「六角型」の物があっておもしろかった。
これは茨城県の五浦海岸にある天心の六角堂にちなんだものだそうだ。

谷中散策の最後に、駅のすぐ近くにある谷中霊園に入る。
雑司ヶ谷霊園のようなものを想像していたが、ちょっと違っていた。

山手線に乗って上野へ行き、歩いて鈴本演芸場へ行く。
特別企画公演「秋の夜長の文菊十撰」(古今亭文菊師匠)だったため、幕見券で入場。
中入り後の午後7時から入場。
そのため、入場券3000円が2000円に。
四半世紀ぶりの寄席。
やはり、生の落語はいいものだ。
この日の文菊師匠の演目は「猫の災難」。
酔っ払いの演技がお見事。

約半日間、江戸情緒、昭和情緒を堪能した。 最高の気分転換ができた。
さあ、連休明けから仕事をがんばろう!

第62回 キャッチボール

9月某日、大学生の次男が戸籍謄本をとるために帰省した。
翌日、久しぶりにキャッチボールをしようということになった。

子どもたちとは、彼らが幼稚園児の頃から高校生までの間、よくキャッチボールをしたものだ。
しかし、次男が大学進学のため上京してからは、まったくキャッチボールをしていなかった。
約1年半もの間、やっていなかったことになる。

久しぶりのキャッチボール、次男の投げ方がぎこちなくて、つい笑ってしまった。
私だけでなく、次男も私と同じブランクがあったようだ。

高校までは体育の授業があって、運動部でなくても運動する機会がある。
しかし、高校を卒業して大学生になると、運動系の部活やサークルに入らなければ運動する機会がなくなってしまう。
そして、体力が落ちたことを実感するものだ。

次男は「なんかおかしいなぁ」と言いつつ、10分くらいやっていて、やっと感覚を取り戻したらしい。
それからしばらくはいろいろと話しながらキャッチボールをした。

親子でするキャッチボール、友人とするキャッチボールは、話しながらするものなので、最高のコミュニケーションである。

私の大好きな映画「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年)、そして大林信彦監督の「異人たちとの夏」(1988年)にも、それぞれの主人公が自分よりも若い父(つまり幽霊なのだが)とキャッチボールをするシーンがある。

「フィールド・オブ・ドリームス」も「異人たちとの夏」もとても感動的なシーンである。
「親子でするキャッチボールはいいものだな」とつくづく思う。

「10分だけやろう」と始めたキャッチボールも、気づいてみたら20分もやっていた。
「そろそろ終わりにしよう」と話していたら、次男が大暴投し、ボールは草むらの中へ。

ボールを捜して草をかき分けていたら、ジャージに大量の植物の種(ひっつき虫)がついてしまった。
これをすべて取るのに30分くらいかかってしまった。

こうして約1年半ぶりのキャッチボールは終わった。
ひっつき虫の件は余計だったが、いい汗をかいて、気分もすっきりした。

受験生のみなさん、気分転換にキャッチボールはいいですよ。

最後に、キャッチボールの歌を紹介してこのブログを終わりにします。

的大き兄のミットに投げこみし健康印の軟球(ボール)はいずこ 

小高賢