第157回 村山由佳著『PRIZE』

村山由佳著『PRIZE』(文藝春秋)を読む。

売れっ子作家である天羽カインは、全国の書店員が選ぶ「本屋大賞」は受賞したものの、その他の文学賞とは縁が無い。
中堅作家である彼女は、日本の最高峰である直木賞の候補には何度もあがっていたが、いつも落選する。

自分の作品は選考委員たちの作品よりもずっと売れているのに、なぜ賞をくれないのか?
自分の作品のどこに問題があるのか?
選考委員は自分に嫉妬しているのではないか?
天羽カインは悩み、怒り狂う。

天羽カインは直木賞への執着を隠すことなく、受賞に向けて、編集者の緒沢千紘と二人三脚で作品を作り上げてゆく。

文壇や直木賞、出版社の裏事情などがたくさん描かれていて、読書好きにはたまらない。
作家は己を曝け出すものであるが、「村山さん、ここまでやるか」と思うような作品だった。
そして、意外な結末。

最後まで一気に読んでしまった。
村山由佳は、令和の無頼派作家なのかもしれない。

第156回 今年最初のプロ野球観戦

今年最初のプロ野球観戦のため、埼玉西武ライオンズの本拠地ベルーナドームへ行ってきた。

最近は背番号なしのレプリカユニフォームを着ていたが、今回は思うところあって〈背番号55〉の秋山翔吾選手のもので観戦した。

秋山選手は現在、セ・リーグの広島東洋カープでプレーしている。
秋山選手がカープに移籍してからは〈背番号55〉は封印していた。
こんな日が来るなんて。

「思うところ」は秘密です。

観戦記は後日書きたいと思っています。

第155回 朝井まかて著『秘密の花園』

朝井まかて著『秘密の花園』(日本経済新聞出版)を読む。

『秘密の花園』は『南総里見八犬伝』の作者である曲亭馬琴(滝沢馬琴)が主人公の小説。

馬琴が苦労人というのは有名な話だ。
彼の妻は感情の抑制が難しく、しょっちゅう爆発的に怒ったりしていた。また、心の通じ合っていた長男は自分より先に他界してしまう。
馬琴自身が73歳で失明すると、長男の妻が口述筆記をすることで彼を助ける。
妻はそのことが気に入らず、不機嫌がさらに激しくなる。

版元とのトラブル、長男の死、自身の失明など、たくさんの苦難を乗り越え、約28年かけて『南総里見八犬伝』を完成させる。

そんな馬琴が主人公のため、『秘密の花園』はとても重苦しい作品だった。
そのせいか、読了するまで少し時間がかかってしまった。

ハードカバーで466ページある『秘密の花園』は、重厚感のある作品だった。

第154回 ジェンダー平等の社会を

以下は下野新聞(2025年2月20日)に掲載された拙文です。

家制度の価値観アップデートを

下野新聞社が全国の地方紙や専門紙と合同調査をした結果、回答者の約7%がジェンダーバイアス(性別に基づく固定観念)を理由に地元を離れた経験があり、そのうちの約8割が女性だったそうだ。本紙は「家父長制のような価値観や性別役割分担意識」が女性の人生選択に影響していると分析していた。

日本の家父長制は明治時代に「家制度」として制定された。この価値観は戦後も根強く生き残り、女性や立場の弱い人たちを苦しめてきた。最近は「ジェンダー平等」が叫ばれているが、地方では価値観の見直しが進まず、生きにくさを感じている女性は多い。

今、私たちに求められているものは「家父長制」という古い価値観を見直し、ジェンダー平等の社会を作り上げることだ。そのためには価値観のアップデートが必要だと、昭和生まれの私は自戒を込めて思っている。

第153回 白蔵盈太著『一遍踊って死んでみな』

白蔵盈太著『一遍踊って死んでみな』(文芸社文庫)を読む。

白蔵さんの作品を読むのは初めてだった。

一遍は鎌倉仏教の時宗の開祖だ。
しかし、一遍自身が教団を作ったわけではない。
一遍の死後、彼の弟子たちが教団を組織したのだ。

遊行上人と呼ばれている一遍は、「踊り念仏」で有名だ。
「捨聖」とも言われていて、死ぬ直前に、自分の身の回りのものすべてを燃やしてしまった。
かなりぶっ飛んだ人である。

この小説の主人公は、ロック好きの高校生のヒロ。
彼は下校途中に雷に打たれ、鎌倉時代にタイムスリップしてしまう。
そこで一遍と出会い、魅了され、一遍の死の直前まで行動をともにする。

物語はヒロの視点で進んでゆく。

「念仏は現代のロック」という視点がおもしろかった。
確かに、言われてみればとても似ていると思う。

とにかくおもしろく、一気に読み終えてしまった。
文体も読みやすく、歴史小説や時代小説に馴染みのない中高生にも楽しめる作品だ。

もちろん、実在の人物とはいえ、人物像は作者が作り上げている。
けれど、「一遍って、こんな人だったかも」と思ってしまうくらい説得力がある。
最高のエンタメ小説だ。

白蔵さんの歴史小説をもっと読みたいと思い、さっそく葛飾北斎が主人公の『画狂老人卍』(文芸社文庫)を注文した。
今から楽しみである。

第152回 プロ野球選手名鑑2025

2025年版のプロ野球選手名鑑を買った。
今年も、昨年同様コスミックス社版の小さい方の選手名鑑を購入した。

NPBの公式戦の開幕戦は3月28日だ。
それまでに我がライオンズの新戦力を頭に入れておきたいと思う。

昨年のライオンズは、91敗の球団ワースト記録を作ってしまった。
どん底の一年だった。
今年は上がるしかない。
せめてAクラスに入ってほしい。

公式戦の前に1試合くらいオープン戦に行きたい。

今からわくわくしている。

第151回 立川談四楼著『七人の弟子』

立川談四楼著『七人の弟子』(左右社)を読む。

立川談四楼師匠は七代目・立川談志の高弟であり、「本書く派」の噺家さんだ。
談四楼師匠の小説は何冊か読んでいるが、落語同様その文体も心地よい。

『七人の弟子』は、ご自身と弟子たちとの関係を書いた実録小説だ。
談四楼師匠のところには、40歳以上の中年の入門志願者が多く来る。

彼らとのやりとり、そして弟子たちに対しての温かい思いが心地よい。
もちろん、人間のすること、良いことばかりではなく、怒りや後味の悪いこともある。
それらのことが包み隠さず書かれている。

本書には、「七人の弟子」「長四楼のこと」、そして「三日間の弟子」の3作品が収められている。
どれも魅力的な作品だが、私は「三日間の弟子」がとくに良かった。
もしかして談四楼師匠の兄弟子になっていたかもしれない原氏という人物が、昔むかし、三日間限定で談志の弟子になったという話だ。
「人生」というものを考えさせられるとともに、やはり立川談志は魅力的な人だったと思った。

『七人の弟子』、たいへんすばらしい作品集だった。

第150回 戦後80年、昭和100年

以下は下野新聞(2025年1月28日)に掲載された拙文です。

戦時下のような思考停止は危険

元日の本紙に、人類学者の磯野真穂氏と作家の小林エリカ氏の基調対談「明日へ歩みを進める」があり、たいへん興味深かった。対談中、両氏は「コロナ禍」の日本社会の様子を戦時中と似ていると指摘していた。

確かに、コロナ禍当時は全体主義的な空気がまん延していた。多くのメディアは国の方針を無批判に報道するだけだった。戦時下はこのような雰囲気だったのだろうと感じた。もちろん感染症が広がっている時は一定の行動制限は必要だ。しかし、国民が思考停止となり「右へ倣え」の行動をとるのは問題だ。

歴史で戦争の恐ろしさやファシズムの危険性について学んでも、人間は同じような行動を繰り返してしまうのだ。今年は戦後80年、激動の昭和から100年に当たる。戦争や報道の在り方などについて考えていきたい。

第149回 昭和レトロ

以下は東京新聞(2025年1月28日)に掲載された拙文です。

元気出る「昭和レトロ」

9日「昭和100年 レトロブームの背景は?」で昭和レトロが特集されていた。
若者にも昭和レトロがブームのようで、成長期にその時代を生きてきた者としてはうれしい限りだ。

もちろん、あの時代のすべてが良かったわけではない。大量生産、大量消費、環境破壊も激しかった。男尊女卑の社会だったし、中学校では今考えれば信じられない理不尽な校則が存在した。かなり未成熟な社会だったのだ。それでも、あの頃は「日本の未来はきっと明るいはず」と思えるような雰囲気があった。それは幻想だったのだけれど。

単なる郷愁ではいけないと思いつつ、あの頃の映像や写真、品々を見ると元気が出る。「昭和レトロ」に元気をもらって令和を生きるのも悪くないと思っている。

第148回 宮島未奈著『婚活マエストロ』

宮島未奈著『婚活マエストロ』(文藝春秋)を読む。

『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)で大ブレークをした宮島さんの3冊目の小説。

主人公は40歳のフリーライター・猪名川健人。
彼はネットの「コタツ記事」を書いてなんとか生活している。
結婚願望はない彼だったが、婚活パーティーの取材をきっかけに、婚活パーティーに深くかかわることになっていく。

「婚活マエストロ」と呼ばれている鏡原奈緒子も魅力的な登場人物だ。

宮島さんの文体は読みやすく、しかも読者を物語に没頭させる力がある。

予想通りの結末で終わるが、それも心地よく、読後感が良い。
『成瀬は天下を取りにいく』『成瀬は信じた道をいく』同様、元気がもらえる小説だ。

もちろん、私は参加しないけれど、「婚活パーティー」はなかなか興味深いものだと思った。

おすすめの一冊です。