第153回 白蔵盈太著『一遍踊って死んでみな』

白蔵盈太著『一遍踊って死んでみな』(文芸社文庫)を読む。

白蔵さんの作品を読むのは初めてだった。

一遍は鎌倉仏教の時宗の開祖だ。
しかし、一遍自身が教団を作ったわけではない。
一遍の死後、彼の弟子たちが教団を組織したのだ。

遊行上人と呼ばれている一遍は、「踊り念仏」で有名だ。
「捨聖」とも言われていて、死ぬ直前に、自分の身の回りのものすべてを燃やしてしまった。
かなりぶっ飛んだ人である。

この小説の主人公は、ロック好きの高校生のヒロ。
彼は下校途中に雷に打たれ、鎌倉時代にタイムスリップしてしまう。
そこで一遍と出会い、魅了され、一遍の死の直前まで行動をともにする。

物語はヒロの視点で進んでゆく。

「念仏は現代のロック」という視点がおもしろかった。
確かに、言われてみればとても似ていると思う。

とにかくおもしろく、一気に読み終えてしまった。
文体も読みやすく、歴史小説や時代小説に馴染みのない中高生にも楽しめる作品だ。

もちろん、実在の人物とはいえ、人物像は作者が作り上げている。
けれど、「一遍って、こんな人だったかも」と思ってしまうくらい説得力がある。
最高のエンタメ小説だ。

白蔵さんの歴史小説をもっと読みたいと思い、さっそく葛飾北斎が主人公の『画狂老人卍』(文芸社文庫)を注文した。
今から楽しみである。

第152回 プロ野球選手名鑑2025

2025年版のプロ野球選手名鑑を買った。
今年も、昨年同様コスミックス社版の小さい方の選手名鑑を購入した。

NPBの公式戦の開幕戦は3月28日だ。
それまでに我がライオンズの新戦力を頭に入れておきたいと思う。

昨年のライオンズは、91敗の球団ワースト記録を作ってしまった。
どん底の一年だった。
今年は上がるしかない。
せめてAクラスに入ってほしい。

公式戦の前に1試合くらいオープン戦に行きたい。

今からわくわくしている。

第151回 立川談四楼著『七人の弟子』

立川談四楼著『七人の弟子』(左右社)を読む。

立川談四楼師匠は七代目・立川談志の高弟であり、「本書く派」の噺家さんだ。
談四楼師匠の小説は何冊か読んでいるが、落語同様その文体も心地よい。

『七人の弟子』は、ご自身と弟子たちとの関係を書いた実録小説だ。
談四楼師匠のところには、40歳以上の中年の入門志願者が多く来る。

彼らとのやりとり、そして弟子たちに対しての温かい思いが心地よい。
もちろん、人間のすること、良いことばかりではなく、怒りや後味の悪いこともある。
それらのことが包み隠さず書かれている。

本書には、「七人の弟子」「長四楼のこと」、そして「三日間の弟子」の3作品が収められている。
どれも魅力的な作品だが、私は「三日間の弟子」がとくに良かった。
もしかして談四楼師匠の兄弟子になっていたかもしれない原氏という人物が、昔むかし、三日間限定で談志の弟子になったという話だ。
「人生」というものを考えさせられるとともに、やはり立川談志は魅力的な人だったと思った。

『七人の弟子』、たいへんすばらしい作品集だった。

第150回 戦後80年、昭和100年

以下は下野新聞(2025年1月28日)に掲載された拙文です。

戦時下のような思考停止は危険

元日の本紙に、人類学者の磯野真穂氏と作家の小林エリカ氏の基調対談「明日へ歩みを進める」があり、たいへん興味深かった。対談中、両氏は「コロナ禍」の日本社会の様子を戦時中と似ていると指摘していた。

確かに、コロナ禍当時は全体主義的な空気がまん延していた。多くのメディアは国の方針を無批判に報道するだけだった。戦時下はこのような雰囲気だったのだろうと感じた。もちろん感染症が広がっている時は一定の行動制限は必要だ。しかし、国民が思考停止となり「右へ倣え」の行動をとるのは問題だ。

歴史で戦争の恐ろしさやファシズムの危険性について学んでも、人間は同じような行動を繰り返してしまうのだ。今年は戦後80年、激動の昭和から100年に当たる。戦争や報道の在り方などについて考えていきたい。

第149回 昭和レトロ

以下は東京新聞(2025年1月28日)に掲載された拙文です。

元気出る「昭和レトロ」

9日「昭和100年 レトロブームの背景は?」で昭和レトロが特集されていた。
若者にも昭和レトロがブームのようで、成長期にその時代を生きてきた者としてはうれしい限りだ。

もちろん、あの時代のすべてが良かったわけではない。大量生産、大量消費、環境破壊も激しかった。男尊女卑の社会だったし、中学校では今考えれば信じられない理不尽な校則が存在した。かなり未成熟な社会だったのだ。それでも、あの頃は「日本の未来はきっと明るいはず」と思えるような雰囲気があった。それは幻想だったのだけれど。

単なる郷愁ではいけないと思いつつ、あの頃の映像や写真、品々を見ると元気が出る。「昭和レトロ」に元気をもらって令和を生きるのも悪くないと思っている。

第148回 宮島未奈著『婚活マエストロ』

宮島未奈著『婚活マエストロ』(文藝春秋)を読む。

『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)で大ブレークをした宮島さんの3冊目の小説。

主人公は40歳のフリーライター・猪名川健人。
彼はネットの「コタツ記事」を書いてなんとか生活している。
結婚願望はない彼だったが、婚活パーティーの取材をきっかけに、婚活パーティーに深くかかわることになっていく。

「婚活マエストロ」と呼ばれている鏡原奈緒子も魅力的な登場人物だ。

宮島さんの文体は読みやすく、しかも読者を物語に没頭させる力がある。

予想通りの結末で終わるが、それも心地よく、読後感が良い。
『成瀬は天下を取りにいく』『成瀬は信じた道をいく』同様、元気がもらえる小説だ。

もちろん、私は参加しないけれど、「婚活パーティー」はなかなか興味深いものだと思った。

おすすめの一冊です。

第147回 童門冬二著『歴史に学ぶ「人たらし」の極意』

『歴史に学ぶ「人たらし」の極意』(青春新書)を読む。

福島正則、徳川家康、加藤清正、伊達政宗、黒田官兵衛など、主に戦国武将の「人たらし」のエピソードが紹介されている。
田中角栄元首相など、昭和の政治家のエピソードも。

江戸時代の儒者である荻生徂徠は、歴史を学ぶ楽しみとして以下のように語っている。

〈炒り豆をかじりながら古今の人物を罵るは最大の快事なり〉

この本はその反対、歴史上の人物の魅力が書かれている。

「人たらし」になろうとして他者と接するのではなく、自然とそのような振る舞いができる人物こそが本物なのだろう。

読んでいて楽しい本だった。

 第146回 子どもとデジタル教育

以下は下野新聞(2025年1月6日)に掲載された拙文です。

デジタル教育の負の面考えたい

コロナ禍を経て教育のデジタル化が進んだ。学校では学習用端末が1人1台与えられている。2025年度からは中学校でも新しい教科書が使用されることになり、これまで以上にデジタル化が進むだろう。

もちろん、動画や音声が加わることで内容の理解が深まるというメリットはある。しかし、教育のデジタルが進みすぎるとマイナス面もたくさんあるのだ。実際、デジタル教育先進国のスウェーデンでは、子どもたちの学力低下が深刻で、紙の教科書の復活が叫ばれているそうだ。

全体的な傾向として、子どもたちの読解力や漢字を書く力、集中力などが低下していると感じる。教育の基本は「紙の本を読む」「紙の辞書を引く」「鉛筆で紙に文字を書く」だ。デジタル社会が進む今こそ、「子どもとデジタル教育」について考えてゆきたいと思う。

第145回 2024年の3冊

当ブログの読者のみなさま、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。

2025年の最初のブログは、「2024年の3冊」です。

万城目学著『八月の御所グラウンド』(文藝春秋) ブログ第78回

永井紗耶子著『きらん風月』(講談社) ブログ第97回

本郷和人・島田裕巳共著『鎌倉仏教のミカタ』(祥伝社新書) ブログ第114回

以上の3冊は当ブログで書きました。
是非、お読み下さい。

2025年もすばらしい本に出会いたいと思います。

第144回 イチローさん、すごい!

今回のTBSのドキュメンタリー番組「情熱大陸」は、2夜連続のスペシャル放送だった。

密着取材された人は、元メジャーリーガーのイチロー氏である。

現在、イチロー氏の肩書は、「マリナーズ会長付特別補佐インストラクター」。

51歳のイチロー氏は、現在も現役時代とかわらないトレーニングを続けている。

松井秀喜氏(50)との対談がおもしろかった。

イチロー、松井の両氏は、すべてがデータ化、数値化され、選手が自分の頭で考えなくなってしまったメジャーリーグの野球は退屈でつまらないと言う。
そして、日本のプロ野球がメジャーリーグの野球のようになってしまうことを恐れていた。

数値化できないもの、感性を大切にする両氏は、さすがだと思った。
一流のスポーツ選手は「芸術家」でもあるのだ。

現在、イチロー選手は高校生の指導も行っている。
高校生たちに、以下のようなことを話していた(内容は正確ではありません)。

自分の指導で、野球が上手くなってくれるのはうれしい。
でも、自分はそれよりもっと先を考えている。
君たちには人の痛みがわかる人になって欲しい。

つまり、「野球を通して、人間としても成長して欲しい」ということだろう。

まったく同感だ。

私も、日々の学習指導を通して、子どもたちには「人として成長して欲しい」と願っているからだ。

今回の「情熱大陸」は予想以上におもしろく、学びも多かった。