第87回 新訳『歴史とは何か』

E.H.カー(1892~1982)の『歴史とは何か』(清水幾太郎訳、岩波新書)は、はるか30数年前、学生時代に読んだ。


「史学科の学生なら読まなければならない本、読んで当然」と言われていたので、古本屋で100円で買って読んだのだ。
読んだけれども、中身はほとんど残っていない。
せいぜいが以下の一文である。

歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程であり、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話なのであります。

この『歴史とは何か』の新訳が2022年に出たので、手に取ってみた。

近藤和彦訳の新版は371ページの大著。
実は、興味を持って読んだところは今回新たに付け加えられたカーの「自叙伝」と「略年譜」だった。

今回も、分かったようで分からない。
30数年前に読んだ時と同じような感想というところが情けない。

本当に、歴史とは何なのだろう?

第86回 九段理江著『東京都同情塔』

第170回芥川賞受賞作、九段理江著『東京都同情塔』を読む。

作者が「全体の5%くらいは生成AIを使っている」と発言し、文学界以外でも議論になっている作品だ。

正直、直木賞受賞の2作品と比べて読みにくいと思った。
これは芥川賞が「純文学」というジャンルの新人賞なので仕方ない部分ではある。

『東京都同情塔』の舞台は日本の近未来。
この物語は、現実とは違って、東京オリンピックはパンデミックの中、たくさんの犠牲者(死者)を出しながら2020年に開催される。
新国立競技場は、当初の計画であったザハ・ハディド氏が設計したものとなっている。

物語の日本社会は、異常なほどの寛容社会になっていた。
岡田斗司夫氏がいうところの「ホワイト社会」だ。
現実世界の日本もその方向に進んでいると思う。

「犯罪者」は「同情されるべき人々」で、彼らが快適に過ごす施設「シンパシータワートーキョー」(通称、東京都同情塔)が建設されている。
ジョージ・オーウェルのディストピアSF小説『1984』が頭に浮かんだ。

犯罪者にとって、「シンパシータワートーキョー」内はユートピアである。
好きな服を来て、好きな本を読んで、好きな映画を視聴して、快適に過ごせる。
しかし、実は完全な自由は与えられてはいない。
使用できない言葉があったり、自由に思考できなかったりする。
ここで暮らす人々は、使用禁止用語の存在自体忘れてしまっている。

ユートピアは、見方を変えればディストピアである。

『東京都同情塔』は難解な小説だった。
ちゃんと理解するためには、何回か読み返す必要がある。
時間を置いて、また読み返してみようと思う。

評判通りのすごい小説だったが、何かもやもやしたものが残った。
やはり芥川賞受賞作だからなのかもしれない。

第85回 河﨑秋子著『ともぐい』

河﨑秋子著『ともぐい』(新潮社)を読む。
この作品は第170回の直木賞の受賞作だ。
新聞や雑誌の書評などでかなり評判が良かったが、まったくその通りのすばらしい作品だった。

舞台は明治後期(日露戦争直前)の北海道。
主人公は猟師の「熊爪」という男だ。

「熊爪」は自然と共に生きる。
その生き方は、人間というよりも獣のようでさえある。
力強い文体で、最初から物語にぐいぐい引き込まれた。

詳しい内容は差し控えるが、当初の予想を裏切り、物語は驚きの結末を迎える。
いくつかの書評でその結末(熊爪の死)が衝撃だったと書かれていたが、本当にそうだった。

昔の猟師の生き方、野生動物の生態なども知ることができて興味深かった。

私は知らなかったのだが、河﨑秋子さんの「動物文学」は以前から定評があったようだ。
これから河﨑さんの過去の作品を読んでみようと思う。

第84回 立川談四楼著『談志が死んだ』

1月21日の東京新聞に、落語家の立川談四楼師匠のインタビュー記事が載っていた。
それを読んで、立川流の弟子たちの対談集『談志が死んだ ~立川流は誰が継ぐ』(講談社、2003年)を読み、その流れで談四楼師匠の『談志が死んだ』(新潮社、2012年)を読んだ。

談四楼師匠は七代目・立川談志の高弟だ。
私は談志のファンで、談志の高座を2回見たことが自慢である。
談志のCDはよく聴くし、年末にCDで談志の人情噺「芝浜」を聴くのが恒例となっている。

談四楼師匠は小説も書く噺家さんで、たくさんの小説を書かれている。
『談志が死んだ』は、入門から師の談志の死まで、自身と談志との関係と思いを書いた小説だ。

落語界の師匠と弟子という関係は非常に厳しいもの。
しかも、師匠が個性の強い、癖のあり過ぎる、あの談志である。
当然、尊敬、憧れ、嫉妬、葛藤、憎しみ(?)など、さまざまな感情が渦巻く。

小説『談志が死んだ』では、これらのことが包み隠さず書かれている。
さすが「小説も書く噺家さん」だ。
われわれ読者は怖いものを見るような感覚で、談志と弟子たちとのあれやこれやを知ることができる。
『談志が死んだ』は、たいへん魅力的な小説だった。

1983年、談志が弟子たちを率いて落語協会を脱退し、立川流を設立したのは、談志の弟子の談四楼さんと小談志さんが協会の真打ち昇進試験に不合格とされたことが原因。
その後の立川流の活躍は見ての通りである。

今日、2024年の2月25日は、落語協会が発足してからちょうど100年の節目の日。
その日にこの駄文を書いたのは、別に狙ったわけではありません。

第83回 西田井駅

関東地方で春一番が吹いた日、真岡鐵道の西田井駅へ行った。
実は、この駅に行ったのは今回が初めてである。

今から約40年前、国鉄の真岡線に乗って高校に通っていた。
真岡駅にあるオレンジ色のディーゼルカー(キハ20型ディーゼル動車)だ。
だから、高校時代の3年間、毎日西田井駅周辺の風景は見ていた。
当時は、「おもしろい形をした池があるな」と思っていたものだ。

いつかは西田井駅へ行ってみたいと思いつつ、人生の半分以上を過ぎてしまった。

今回、車で真岡へ行く途中に西田井郵便局に寄り、その時に西田井駅へ行ってみようと思ったのである。

西田井駅は無人駅で、昭和の雰囲気が残っていると感じた。
駅のすぐ近くにある池(ため池)は「西田井駅前公園」となっていた。
私の高校時代は「暗くてうっそうとした池」という印象だったが、きれいに整備されている。
釣りをする人も何人かいて、のんびりした時間が流れていた。

私は釣りはやならいが、釣りをする人を見ているのは悪くない。
「観る将」みたいな「見る釣り」か?
落語の「野ざらし」のまくらを思い出した。

近くにこんな素敵な場所があったとは。
真岡鐵道「西田井駅」を私のお気に入りスポットに追加することにした。

第82回 意外といけるものです

2月5日は、栃木では今年一番の大雪だった。
そのため授業は休みにして、別な日に振替授業をすることにした。

写真は翌日(6日)の午後、塾の南側から撮影したもの。

雪が降ったせいか、非常に寒かった。
夜は車のドアも凍っていた。

実は、我が家では昨年の冬から、「こたつ」と「湯たんぽ」「重ね着」で冬を乗り切っている。
それまではエアコンもつけていたが、「もしかして、こたつと湯たんぽだけでも大丈夫なのではないか」と思ったのだ。
電気代の節約にもなる。

実際、去年の冬は「こたつ」と「湯たんぽ」「重ね着」だけで何の問題もなかった。
そして今年もエアコンはつけていない。

兼好法師も『徒然草』(第五十五段)で以下のように言っている。

家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる。暑きころ、わろき住居は耐え難きことなり。

◆現代語訳◆
家作りの方針は、夏を中心に考えるべきだ。冬はどんな場所であっても住むことができる。けれど、暑い夏は、暑さを考えないで建てた家は住めたものではない。

寒い冬を「こたつ」と「湯たんぽ」「重ね着」で乗り切るのもなかなかいいものです。
是非、みなさんもチャレンジしてみて下さい。

そうそう、頭の寒い私は「毛糸の帽子」も被っています。

第81回 ドラマはいつも2話目から

テレビドラマはよく見る。
最低でも1クールに3作品は見ている気がする。
そして、なぜかいつも2話目から見ることが多い。

新聞のテレビ欄で、新しいドラマが写真つきで紹介されるのが2話目からということが多いからだと思う。
1話目から紹介してもらえるとありがたい。

さて、現在見ているドラマは以下の通り。
(  )内の名前は主演俳優、敬称略。

「ブギウギ」(NHK、月~金、趣里)

「光る君へ」(NHK、毎週日曜日、吉高由里子)

「正直不動産2」(NHK、毎週火曜日、山下智久)

「院内警察」(フジ、毎週金曜日、桐谷健太)

「ジャンヌの裁き」(テレ東、毎週金曜日、玉木宏)

「おっさんのパンツがなんだっていいじゃない」(フジ、毎週土曜日、原田泰造)

このうち、1話目から見ているのは「ブギウギ」と「光る君へ」で、他はすべて2話目からの視聴。

さて、今日からずっと楽しみにしていた新しいドラマが始まる。
宮藤官九郎脚本・阿部サダヲ主演の「不適切にもほどがある!」(TBS)だ。

クドカン脚本・阿部サダヲ出演の作品には、「タイガー&ドラゴン」(主演は長瀬智也と岡田准一)という名作がある。
今回の新作も絶対におもしろいはずだ。
今から非常に楽しみにしている。

※「正直不動産2」の第2話「思いを伝える」(1月16日放送)では、益子町と益子焼、真岡鐵道などが出てきました。

第80回 2023年の漢字は「怒」

私の「2023年の漢字」は「怒」です。

その理由を紹介します。
以下の文章は、今年1月8日の東京新聞に掲載されたものです。
読みやすさを考慮して、ネット仕様でご紹介します。

国民無視の政治 転換を

昨年末は自民党裏金問題が発覚し、日本の政治が揺らいだ。
他にも同党は、旧統一教会との深い関係、インボイス制度導入、現行保険証の廃止、国立大学法人法改正、辺野古新基地問題など国民の声を無視した政治を強行している。
世論無視、国会軽視、嘘がまかり通る政治、それに伴う社会のモラルの低下は、第2次安倍政権から始まったように思う。
日本は明らかに衰退している。
毎日ニュースに接して、怒りを覚えている。
こんな政治が続いていいわけがない。
国民は怒りを忘れず、選挙で国民の生活を第一に考える政治家と政党に投票すべきだ。
メディアは政権与党の問題について忖度なしの報道を心がけてほしい。
本年は、国民が政治を信頼し安心して生活でき、子どもたちが希望を持てる日本になることを願う。

第79回 塾生たちの「2023年の漢字」

尚朋スクールでは年末企画として、塾生たちから「今年の漢字」を募集しています。
今年は8人の塾生が参加してくれました。

以下で、「2023年の漢字」を発表します。
なお、全員からブログ上で発表する許可を得ました。

◆2023年の漢字

・「努」 受験生として今までで一番努力した年だから。(中3)

・「楽」 中学校生活が始まり、クラスが明るく元気で、今年がとっても楽しかったから。(ゆ)

・「兎」 今年うさぎを飼ったからです。(チョコ)

・「友」 いっぱい友達ができたから。(耀斗)

・「悔」 もう少し勉強しておけばよかったなと思ったから。(中3)

・「頑」 中学生になってから、小学生のときと比べて生活や勉強などがいろいろと変わりました。知らない人がいる中で、友達ができるように努力し、また新しい道を切り開こうと何事に対しても積極的に取り組み、「頑張った」と思った一年だったからです。(☆choco3☆)

・「新」 中学生になって、新しい友達、新しいクラスになったから。(choco)

・「走」 去年よりもたくさん走って、その成果が出たから。(ゆうこる)

塾生たちは、さまざまな思いを胸に2023年を過ごしたようです。

さて、私の2023年の漢字は?

それは「怒」です。

理由は、当ブログに80回目で書くつもりです。
乞うご期待!

第78回 【速報】万城目学さん、直木賞受賞!

昨日、第170回芥川賞・直木賞が発表された。

受賞者は芥川賞が一人、直木賞が二人。
その直木賞受賞者の一人が万城目学さんで、受賞作は『八月の御所グラウンド』。

実は、私は今ちょうど短編集『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)を読んでいる最中で、万城目ワールドにどっぷりと浸かっていたところだ。

読み終えたら感想をブログに書こうと思っていたが、あまりにも嬉しすぎて「速報」として駄文を書いた。

万城目さん、直木賞受賞、本当におめでとうございます!