第137回 もてぎ昭和館

以下は下野新聞(2024年11月23日)に掲載された拙文です。

昭和の懐かしい展示にわくわく

先日、茂木町の「もてぎ昭和館」へ行ってきた。6日付の本紙ピニオン欄に、茂木町地域おこし協力隊員の荒木修さんのインタビュー記事があり、興味を持ったのだ。

建物横の外壁には、昔懐かしいホーロー看板が10枚ほど貼りつけられていて、それを見ただけでもわくわくした。建物の入口や室内には、たくさんの昭和グッズが並べられ、貼りつけられ、飾られていた。たばこ屋、たばこの自動販売機、赤い公衆電話やダイヤル式の黒電話、昔のレコード、人形、木箱に入った清涼飲料水やラムネなど、よくこれだけ集めたものだと感心した。荒木さんもいらっしゃって、収集の裏話や今後の計画などもお聞きした。

昭和を生きてきた人間には懐かしく、昭和を知らない若者や子どもたちには新鮮な空間だろう。ぜひ、多くの方に訪れて欲しいと思う。

第136回 枡野浩一全短歌集

先日の歌会の時に、同じ短歌結社の大先輩Mさんが一冊の歌集を貸して下さった。

『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』(左右社)である。

歌集のタイトル自体が短歌なのだ。

おもしろかった。
とくに気に入った歌を53首筆写した。
その中かから、さらに選んだ歌が以下の5首だ。

こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう(P7)

なにごとも向き不向きってものがあり不向き不向きな人間もいる(P14)

野茂がもし世界のNOMOになろうとも君や私の手柄ではない(P30)

しなくてはならないことの一覧をつくっただけで終わる休日(P184)

殺さずに生きてこられてよかったな だれかのことも 自分のことも(P353)

歌集のほとんどは自費出版なのだが、枡野さんの歌集やエッセイ集などは商業出版だ(と思う)。これは本当にすごいこと。
実際に、お金を出しても読んでみたいと思う本なのだ。

現在は芸人もされているらしい。
歌人の枠をはみ出したその生き方は、以下の一首にあらわれている。

切り売りというよりむしろ人生のまるごと売りをしているつもり(P230)

「すごいなぁ」と感心するばかりなのである。

第135回 三宅香帆著『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』

三宅香帆著『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)を読む。

今年の4月に出版されて、かなり話題になっている本である。

「まあ、確かにそうだよね」という感想。

「最終章『全身全霊』をやめませんか」がとくに印象に残った。

日本人には、そしてアメリカ人にも、「燃え尽きることがすばらしいこと」という価値観がある。
著者は、仕事、高校野球、箱根駅伝、情熱大陸などを例に挙げる。(P250)
そして、燃え尽き症候群、バーンアウトの行き着く先は鬱病に至ると言う。

確かにそうなのかもしれない。
ではどうすればよいのか?

著者は、「働きながら本を読める社会をつくるために」、「半身で働く」こと、それが可能な社会にしようと提唱する。(P266)

著者が提唱するような社会になれば、それはすばらしい。
しかし、日常的に読書する人が減りつつある現代、「半身で働く社会」になったとして、人々は読書するようになるのだろうか?

それはまた別の話である。

第134回 映画「銀河鉄道の父」

2023年に公開された映画「銀河鉄道の父」を観た。

原作は門井慶喜さん。
門井さんは同名の小説で直木賞を受賞された。

宮沢賢治を菅田将暉さんが、賢治の父を役所広司さんが演じている。

現代では、宮沢賢治を知らない日本人はいないと思うが、生前の賢治は無名だった。
賢治が有名になったのは死後のことだ。

日本の文学史に名を残す賢治だが、生きている間は「ニート」だった。
しかも、かなり思い込みが激しく、「困ったちゃん」だった。
家族は本当に大変だったと思う。
そんな賢治を、家族は彼の才能を信じ、あたたかく見守った。
なかなかできないことだと思う。

私は父親の視点で観ていたので、「困った息子だな」と何度もため息が出た。

128分と少し長い作品だが、最後まで飽きずに観ることができた。
オススメの作品である。

かなり昔のことになるが、岩手県花巻市にある宮沢賢治記念館や羅須地人協会(岩手県立花巻農業高等学校内にある)に行ったことがある。
また、盛岡市の賢治ゆかりの地を訪れた。
その時、「岩手には今も賢治が生きている」と感じた。
令和になった現在も、きっとそうだと思う。 久しぶりに賢治の作品を読んでみよう。

第133回 何度も観返す三谷幸喜作品

劇作家・脚本家・映画監督である三谷幸喜さんの作品が好きで、三谷さんの作品をよく観ている。

計算され尽くした伏線、そして笑いとペーソスが三谷作品の魅力だ。

少し前だが、「THE 有頂天ホテル」と「ザ・マジックアワー」を観返した。
これらの作品は何度も観ているが、何度観てもおもしろい。

先日、「THE 有頂天ホテル」と「ザ・マジックアワー」に出演されていた西田敏行さんがお亡くなりになった。
この2作品で西田さんはとても重要な役をされていて、「やっぱり西田さんはすごいよね」と妻と話していたところだった。

西田さんは存在感たっぷりで、西田さんが画面に出ているだけでおもしろい。

西田さんの御冥福をお祈り申し上げます。

「THE 有頂天ホテル」と「ザ・マジックアワー」と続けて観て、今はNHK大河ドラマ「真田丸」を観返しているところ。

「真田丸」については後日書きたいと思います。

第132回 島本和彦著『アオイホノオ』

島本和彦さんの『アオイホノオ』(小学館)を読み続けている。

先日、書店に入って漫画の棚を見ていたら第29巻と30巻が並んでいたので購入。
続けて2冊読んだ。

1980年代初頭、漫画家を目指していた芸大生の主人公・焔燃(ホノオモユル)がプロの漫画家を目指す。
ギャグを交えた熱血漫画だ。

「この物語はフィクションである。」と書かれているが、主人公は島本和彦さんである。

あだち充さんや高橋留美子さんが実名で出てくる。
1980年代の熱気が伝わってきて楽しい。
漫画家の生活や出版社の事情なども知ることができて、とても興味深い。

2014年にはテレビ東京で、柳楽優弥さんが主演でドラマ化された。
このドラマは漫画に忠実でとてもおもしろかった。

プロデビューして間もないホノオモユル。
アシスタントのマウント武士(女性)が登場し、彼女と共にモユルの熱き闘いは続く。

第31巻は2025年初頭に発売されるらしい。
今から楽しみである。

第131回 プロ野球 再編ストから20年

以下は下野新聞(2024年10月11日)に掲載された拙文です。

消滅危機脱した球団経営に感慨

先日の本紙に「プロ野球 再編スト20年」という記事があった。あれから20年が経過したと思うと感慨深いものがある。

当時のプロ野球は、人気球団の巨人を中心に回っていて、パ・リーグの球団経営は非常に厳しかった。セ・パのリーグ格差も大きかった。しかし、プロ野球再編問題を機に、パ・リーグの全球団はリーグ全体を盛り上げようと協力関係を強めた。球団のいくつかは地方に本拠地を移し、地元に愛される球団となった。

私はパ・リーグのある球団を応援していて、年に数試合は現地観戦している。以前は、土日祝日の試合であっても当日にチケットを買うことができたが、最近はそれも難しくなった。リーグ消滅、球団消滅の危機から現在の人気まで盛り返したパ・リーグとパ・リーグ球団からは、大いに学ぶことがあると思っている。

第130回 樹木葬

以下は東京新聞(2024年9月19日)に掲載された拙文です。

負担少ない樹木葬 魅力

9月6日特報面「樹木葬25年」を読んだ。樹木葬を考案したのがお寺の住職さんで、すでに25年の歴史があるという。地元にも樹木葬を始めた寺院があり、新聞の折り込みチラシが入ってくる。

以前、神社が管理する樹木葬の墓地を見学したことがある。墓地は自然が豊かで静かな場所にあり樹木葬も良いのかもしれないと思った。価値観が多様化し、「墓は家族が守るもの」という感覚が薄れてきた。少子化、人口減少が進み、費用が安く、遺族の負担が少ない樹木葬は魅力的だと思う。

ただ、一つだけ気になったことがある。長い年月で大きくなりすぎた木はどうなるのだろうか。生前、父が庭に植えた木々が、予想以上に大きくなりすぎて途方に暮れている者としては、非常に気になるところである。

第129回 馬頭広重美術館の老朽化問題から

以下は下野新聞(2024年9月18日)に掲載された拙文です。

建築時に大切な維持管理の視点

開館から24年が経つ馬頭広重美術館の老朽化が進んでいるというニュースを見た。改修工事には約3億円という多額の費用がかかるそうで、那珂川町はクラウドファンディングなどで改修工事の資金を集めるという。

今年の7月、初めてこの美術館を訪れた。世界的な建築家の隈研吾氏による設計の美術館は、和風の雰囲気たっぷりでとても美しかった。ただ、木材を使った屋根などの傷みが激しく、維持するのは大変だと感じた。数年前、経営する塾の外壁の改修工事をした。外壁に天然の木を使用することも考えたが維持管理するのが難しいと判断し、このアイディアは断念した。

建築物は建てたら終わりではない。その後、維持管理するのに費用がかかる。建物を建てる際は、デザインだけでなく、このような視点も忘れてはならないと思う。

第128回 さびしい季節

さびしい季節がやってきた。
この時期になると、プロ野球を引退する選手、引退しなければならない選手のニュースが飛び込んでくる。

そんな中、先日、埼玉西武ライオンズの2人の選手の引退試合があった。
14日に岡田雅利捕手(#2)、15日に金子侑司外野手(#7)の引退試合があったのだ。
お二人は、2018年、2019年の2度のリーグ優勝に大きく貢献してくれた。

私は契約しているネットで、お二人の最後のプレーと引退セレモニーを見た。

FA(フリーエージェント)で他球団に移籍してしまう選手が多い中、岡田選手と金子選手は「生涯ライオンズ」の選手だった。
ライオンズファンとしては本当にありがたい選手だった。

岡田選手の登場曲は大事マンブラザーズの「それが大事」。
この曲で登場すると、球場全体が「おかだー!」と大いに盛り上がった。
岡田選手といえば、ピンチバンターで登場し、毎回しっかりと送りバントを決めてくれた印象が強い。
明るい性格でチームのムードメーカー、選手からもファンからも愛される選手だった。

金子選手は遊撃手と入団したが、外野手として花開いた。
盗塁王を2度獲得したが、金子選手といえば華麗な守備である。
帽子を飛ばしながらのファインプレーに、数え切れないほど感動させられた。
15日の引退試合でも、レフトフェン際のファールボールを滑り込みながらキャッチした。
前奏が長くて球場全体が盛り上がる金子選手の応援歌を歌えなくなると思うと本当にさびしい。

岡田選手、そして金子選手、長い間本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございました!
いつかコーチとしてライオンズに戻ってきて下さい。