最後はメンタルの強さ

 県立高の一般選抜まで、あと42日となりました。
 あと42日しかないと思うか、あと42日もあると思うか、状況は同じであっても気持ちがまったく違ってきます。
 学生時代から含めると、私は塾講師という仕事を始めてもうすぐ32年目に入ります。そして、尚朋スクールは今春で26年目になります。この間、たくさんの受験生と接してきました。そして断言できることがあります。「最後はメンタルの強さだ」と。
 受験を前にして、不安で不安で勉強に集中できなくなってしまう人がいます。何をやっていても落ち着かず、空回りしてしまっている人です。それは受験生としてよくある状態です。しかしその一方で、次第に集中力を高め、黙々と自分の課題に取り組み、充実した直前期を過ごす人がいます。
 この二者は何が違うのでしょうか。
 それは心のあり方です。「合格しなくては」という思いが強すぎて、力みすぎてしまっている人は、直前期に勉強に集中できないのです。また、受験本番で、自分の実力以上の力を出そうとする人は、逆に緊張して力が出せなくなってしまうのです。そうではなく、これまでがんばってきた自分を信じて直前期を過ごし、また本番では「自分の力を全部出し切ってやるぞ」、「受験を楽しんでやるぞ」といった気持ちで臨むと良い結果が得られるものなのです。リラックスして試験に臨む、心の余裕が大切ですね。そして究極のところ、本番で自分の持っている力を出し切れれば、どのような結果になろうが、それは良い受験だと私は思うのです。

 結果はコントロールできないが、準備はできる。できる準備をすべて終われば、準備にふさわしい結果がやってくる。

 元メジャーリーガーのイチロー選手の言葉です。
 「本番で力が出せるだろうか」「志望校に合格するだろうか」などと悩んでいないで、今できる準備をしっかりとやって下さい。そして、「受験を楽しむ!」くらいの気持ちで本番に臨みましょう。そうすれば、必要以上に緊張しすぎることもなく本番に臨めます。
 受験は、最後はメンタルの強さがものをいいます。そしてそれは心の持ちようなのです。
 中3生が、本番で最高のパフォーマンスを発揮できることを願っています。

『Step By Step 2・3月合併号 第304号』(2022年1月24日発行)より

受験はドラマだ

 各私立高校の合格発表がありました。当塾の塾生は、全員が私立高校に合格しました。また、小山高専の推薦入試を受験した塾生も無事合格しました。中学3年生のみなさん、合格、おめでとうございます。

 ほっと一息ですね。しかし、ここで気を抜いてはいけませんよ。

 先日、ある中3生が、次のようなことを言ってきました。

 「この間のテスト、すごく良かったです。自分でも力がついてきたと実感しています。入塾のとき、先生に、これからしっかりと勉強していけば、時間はかかるけど必ず伸びると言われました。それは、本当だったんですね」

 この塾生は、目を輝かせ、とてもうれしそうでした。

 この言葉を聞いて、私は本当に良かったなと思いました。

 中学3年生は、思春期真っ只中です。この時期に自分の進路を決定します。そして、志望校に向けて、一生懸命に勉強しなければなりません。それは、辛く、苦しいことです。成績が伸びずに焦りを感じたり、成績を伸ばしている友達に嫉妬したり、成績が上がったといっては喜んだり、下がったといっては傷ついて打ちのめされたり。受験生の感情は、振幅が激しいものです。私の大好きな歌人、石川啄木の歌のようです。しかし、仲間と競い合い、励まし合いながら、それぞれの目標に向かってがんばることは、とてもすばらしいことです。真剣に授業を受けているみなさん、自習室で黙々と鉛筆を走らせているみなさん、使い込んだ問題集を持って質問にくるみなさん、面接の練習で緊張した表情のみなさんを見ていると、「みんな、輝いているな」と思い、感動します。

 今は辛く、苦しい受験勉強です。しかし、いつか懐かしく感じる時がくるものです。そのときの感情は、「やり切った」という満足感かもしれません。「もうちょっと頑張れたかな」という、ほろ苦い思いかもしれません。いずれにせよ、一生懸命にがんばった人だけに残る「大切な思い出」です。それは、みなさんの自信になり、宝となるはずです。つくづく、「受験はドラマだ」と思います。

  こころよく 我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて死なむと思ふ  石川啄木 

  「仕事」を「受験勉強」に置きかえて、このくらいの気持ちで受験に臨んで下さい。あくまでも、気持ちですよ。

 県立高校の入試まで、40日を切りました。

さあ、気を引き締めて、ギアを上げてがんばりましょう!

『Step By Step 2月号 第261号』(2019年1月28日発行)より

受験勉強を通して成長する

 もうすぐ立春、暦の上では春になります。
 春といえば、平安初期の歌人・在原業平の次の和歌を思い出します。

  世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし

 現代語訳: この世に、もし全く桜というものがなかったならば、咲くのを待ちこがれたり、 散るのを惜しんだりしなくてすみ、のんびりとした気持ちで過ごせるだろうに。

  在原業平は、桜のすばらしさをこのように詠みました。

 ところで、この世に、「もし受験というものがなかったら」、どうなのでしょうか?
 「受験勉強なんて意味がない。子どもの頃に勉強したことなんて、どうせ忘れてしまうのだから」、このようなことを言う大人もいます。
 でも、本当にそうでしょうか?
 確かに、子どもの頃に勉強した内容を、大人になってもすべて覚えているという人はあまりいないと思います。勉強した内容は、大人になってからの仕事には直接関係ない場合が多いでしょう。この点だけを考えれば、受験勉強に意味はないと思えるかもしれません。
 しかし、受験勉強を通して身につく力は学力だけはないのです。他にもたくさんあるのです。
 たとえば、目標を定め、計画を立て、それを遂行していくことで実行力が身につきます。辞書や参考書を開き、自分の力で問題を解決する、解決しようとすることで、問題解決力が身につきます。また、苦しみながらも試験日までに出題範囲を終わらせるということを通して、締め切りを守るという習慣も身につきます。
 これらは、社会に出て、仕事をしていく上で、たいへん重要な能力です。
 さらに、中学校までに学ぶ内容が身についていれば、ちょっとした教養人といえるかもしれませんね。たとえば、世界情勢を知ろうとする場合、国や国家間の歴史を知っていなければ、正確に理解することはできないものなのです。

 私は、受験という「人生のハードル」に対して、まじめに向き合ったとき、人は大きく成長できると考えています。もちろん、入学試験には定員があるので、思った通りの結果にならない場合もあるでしょう。しかし、人生という視点に立てば、その悔しい思いさえも成長の糧になるのです。
 このように考えれば、受験を通して身につく力は計り知れないと思いませんか?
 塾生のみなさんには、受験を通して大きく成長して欲しいと願っています。

 さて、県立高全日制の一般選抜入試まで、あと1か月ほどとなりました。
 当塾の中学3年生は、この一年間、一人ひとりが大きく成長していると感じています。
授業のない日も自習室に来て、毎日黙々と勉強している塾生がいます。問題集に付箋を貼り、教材をぼろぼろになるまで使い込んでいる塾生がいます。添削を希望して、週に何枚も作文を書いてくる塾生がいます。昨日実施した模試では、休み時間に教材を開いたり、仲間と内容を確認し合ったりと、最後まで気持ちを切らさずにがんばっていました。
 引き締まった、いい顔つきになった中学3年生をみて、頼もしく感じています。そして、同じ志を持った仲間と、励まし合いながらがんばったという記憶は、一生の宝となるはずです。その思い出の一部に、尚朋スクールが残っていたら、これほどうれしいことはありません。
 「サクラサク」春は、もうすぐです。あと1か月、がんばれ受験生!

『Step By Step 2月号 第233号』(2017年1月30日発行)より

『徒然草』の魅力

 古文を読むのは非常に楽しいものです。
 最近、私は就寝前に古文を読んでいます。
 『今昔物語集』、『伊勢物語』、『土佐日記』、『大鏡』、『方丈記』、『平家物語』、『南総里見八犬伝』などなど、時代とジャンルを問わず、その日の気分によって、好き勝手に読んでいます。
 「古文」は「勉強」というイメージがあって「嫌いだ」という人もいるかもしれません。また、「21世紀に、どうして古くさいものを読む必要があるのか」と思う人もいるでしょう。
 しかし、実際に古文を読んでみると、はるか昔の日本人の心情も、現代を生きる私たちと何ら変わることはないということが分かります。
 みなさんには、まずは現代語訳でいいので、古文に親しんで欲しいと思います。
 数ある古文の中でも特におすすめなのが、兼好法師(1283?~1352?)の『徒然草』です。鎌倉・南北朝時代の歌人・文人であった兼好法師の書いた『徒然草』は、243の短い章段から成る随筆集です。内容は、人生観、自然観、趣味など、多岐にわたっています。
 私は高校時代に『徒然草』に魅了され、それ以来、ずっと愛読しています。
 『徒然草』は人生指南の書でもあります。これを読んでいれば、人の道を踏み外さなくてすむのではないかと思います。
 どのような章段があるのか、いくつか例を挙げてみましょう。
 ※以下の章段名と現代語訳は、『ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 徒然草』(角川ソフィア文庫)のものです。

「友あれど心の友はなし」(12段)、「思い出は心をうるおす」(29段)、「悪筆は個性の表現」(35段)、「ばかを嘲る大ばかもの」(41段)、「会話のマナー」(56段)、「人生はこの一瞬の積み重ね」(108段)、「勝つと思うな、負けぬと思え」(110段)、 「良友と悪友の条件」(117段)、「訪問のマナー」(170段)、「社交の極意」(233段)……。

 どうでしょうか、上記の章段名を見ただけでも、興味深いと思いませんか。
次の第13段「読書は古人との対話」は、わずか3文の非常に短いものです。その最初の一文を紹介しましょう。

 独りともし火のもとに文を広げて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる。
(独り灯火のもとで読書して、作者や登場人物など、知らない昔の人を友とするのは、何よりも心が安らぐ。)

 現実の人間関係に不満を持っている人も、読書を通して、古今東西の作者や登場人物と時間を共有すれば、「少しも寂しくはないぞ、幸せな気分になるぞ」という内容で、兼好は読書のすばらしさを述べています。
 ちなみに、尚朋スクールの塾名は、「古代の賢人を友にする」という「尚友」に由来します。
 塾生のみなさん、是非、「徒然草」を読んでみて下さい!

『Step By Step 2月号 第208号』(2015年2月2日発行)より

考えて努力をしているか

 先日、以前に録画しておいたテレビ番組「アスリートの魂」を見ました。
 昨年の6月10日に、NHK・BS1で放送されたものです。
 この回でとり上げられたのは、19歳のルーキー、阪神タイガースの藤浪晋太郎投手です。
 みなさんも知っている通り、彼は、大阪桐蔭高校時代に、甲子園で春夏連覇を達成したすごい投手です。2012年のドラフト会議では4球団から1位指名され、抽選の結果、阪神タイガースに入団しました。昨年は、プロ入団一年目ながら10勝を挙げ、大活躍しました。セ・リーグで、高卒新人で10勝を挙げたのは、46年ぶり5人目の快挙だそうです。
 番組中の彼の表情や受け答え、発言の内容は、非常に成熟していて、とても19歳の若者とは思えませんでした。二十歳前後で世間に注目されると、自分を見失い、それまで持っていた良さを失ってしまうことも少なくないのですが、彼にはそのような様子はまったくありませんでした。
 藤浪投手は自分の置かれている状況を冷静に見極めることができているのです。試合後は、投げた試合の映像を見て、自分のピッチングをチェックし、分析して、自分の理想に向かって日々努力しているのです。その姿勢は、とても立派です。私は、なんて賢い若者なのだろうと感心しました。
 彼は、常に考えた上で努力しているのです。
 プロ野球という厳しい世界で、高卒1年目から結果を出している藤浪投手から、大いに学ぶことがあると感じました。

  小学1年生から野球を始めた藤浪投手は、仲間たちとともにたくさん練習に励んできました。しかし、彼には他の子たちと大きく違った点がありました。それは、ただ単に練習量が多いだけでなく、自分の頭で考えて練習していたという点です。
 小学生ながら野球の専門書を読むなどして、常に自分の頭で考えて練習していたのです。高い目標を持ち、冷静に自己分析し、課題を見つけ、課題克服のために今何をすべきかを常に考えてきました。自分のどこが弱点で、どこを鍛えれば改善されるのか、自分なりのチェックポイントをいつも確認してきました。
 そして、こうした努力は、プロ野球選手になった現在も続けています。
 藤浪投手の野球に対する真摯な姿勢は、勉強や部活動に励む小中学生のみなさんにとっても大いに参考になるはずです。

  勉強もスポーツも、時間をかけて、ただやるだけではダメなのです。(以下、勉強に限ってお話しします。)
 いくら長時間学習していても、いくらたくさんノートを使っても、中身のない学習をしていては、成績は絶対に伸びません。意味のある学習、結果に結びつく学習をしましょう。
 改めて、現在の自分の課題や弱点を考えてみて下さい。
 「自分は○○はできるけれど、△△はできない」「自分はここまではできるけれど、ここから先はちょっと自信がない」などと、自分を冷静に見つめてみましょう。すると、これからどのような努力をすれば良いかが、自ずと見えてくるものです。
 さまざまなテストについても同様です。
 テストを受けて、その結果に一喜一憂しているだけではダメです。テストを受けた後で、自己分析し、自分の弱点を見つけ、それを克服する努力を実践することが大切なのです。
 みなさん、テストの復習はこのようなことを考えて行っていますか? なぜできなかったのか、どうすればできるようになるのかを考えていますか?
 模試や実力テストはいわば練習試合のようなものです。そして、テストの復習は、試合後の練習と同じなのです。スポーツの世界でも、試合後に課題克服のため、さらに努力するはずです。
 実際、成績の良い人、成績が伸びている人は、主体的な姿勢で、頭を使い、工夫して、正しい努力を続けています。

 「勉強なんて面倒くさい。そこまでしてやる意味があるのか」と思った人もいるかもしれませんね。
 たかが勉強、されど勉強です。
 大人になったとき、今学んでいる内容を忘れてしまったとしても、勉強することで身につけた正しい努力の方法は、体と頭が覚えているものです。
 今の自分の実力を冷静に判断する自己分析力、何から取りかかったらよいかを考える段取り力、どうしたら目的を達成できるかを考える問題解決力など、生きてゆく上でとても大切で、役に立つことばかりです。
 みなさん、賢い努力をして下さい。

『Step By Step 2月号 第195号』(2014年2月3日発行)より

古典の楽しみ

 “古典とは、名前はみんな知っているが、だれも読んでいない”
 上記の言葉は、学生時代に、英文学者の奥井潔先生(1924~2000)から教えていただいた言葉です。
 そういわれてみると、確かにそうかもしれません。
 例えば、日本の古典文学を考えてみても、国語や歴史の教科書に必ず出てくる、紫式部の『源氏物語』の名前は、大人であれば誰でも知っています。けれど、実際にすべてを読んだ人は、かなり少ないと思います。恥ずかしながら、私もその一人です。大和和紀のマンガ、『あさきゆめみし』は読みましたが。
 「古典とは、名前はみんな知っているが、だれも読んでいない」のあとに、奥井先生は、「古典を理解することは偉大さを理解することである。そのためには、人格的成熟が必要であり、若者が古典から入るのは無理である。であるから、読書は乱読が王道である。青春時代は、まず、万巻の書を読むことだ」と続けられました。
 つまり、できるだけたくさんの本を読め、ということです。
 そう言われても、若者は生意気なものです。背伸びをしたくなります。大学生なのに古典文学を読んでいないなんて格好悪い。そう思って、学生時代の私は、西洋の古典文学に挑戦しました。
 案の定、途中で投げ出してしまったものがたくさんありました。また、最後まで読み通してはみたものの、「ただ読んだ」というものもたくさんありました。
 まあ、青春時代の背伸びも、決して無駄ではありませんが。

 あの頃から、二倍以上生きてきた今、思います。
 二十歳前後の若造が、古典を理解できないのも無理はないのだと。
 奥井先生がおっしゃったように、私のような凡人が、古典を理解できるようになるためには、それなりの人生経験が必要なのですね。

 さて、私の最近の楽しみは、寝る前に、蒲団の中で日本の古典文学を読むことです。
 昨年のNHKの大河ドラマは、おもしろくなくて、途中で見るのをやめてしまいました。自分としては、かなり珍しいことです。見るのをやめたかわりに、『平家物語』を読むことにしました。
 これが、最高におもしろかったのです。
 歴史的背景も、人間関係も、けっこう複雑なのですが、その複雑なところが魅力なのです。
 付録の桓武平氏や清和源氏、天皇家・藤原氏の系図や、合戦略図や略年表を見て、ふむふむと納得しながらページを繰る。至福の時でした。
 これに味をしめて、現在、『太平記』を読んでいます。これも、またおもしろいです。
 『平家物語』や『太平記』といった手ごわい古典文学を、心底楽しいと思えるのは、やはり、それなりに年を重ねてきたからなのでしょうね。いや~、歳をとるのも悪くないものです。
 若いみなさんも、いつかはオジヤン、オバヤンになります。嫌だといっても、必ずその日がやって来ます。覚悟しておいて下さい。
 そのとき、この駄文を思い出してくれたらうれしいです。
 とりあえず、若い今は、手当たり次第に、たくさんの本を読んでみるといいです。
 今年、みなさんがすばらしい本に出合えることを願っています。

『Step By Step 1月号 第183号』 (2013年1月8日発行)より

宝の言葉がいっぱいの本

 2012年になって最初の塾通信です。第170号という切りのいい番号で、ちょっと気分がいいです。
 さて、私が今年最初に読んだ本をみなさんに紹介します。
 王貞治さんと岡田武史さんの対談集、『人生で本当に大切なこと』(幻冬舎新書)です。
 王さんは、世界最高本塁打数記録保持者(通算868本)で、現在、福岡ソフトバンクホークス球団取締役会長です。「世界の王」として、多くのメジャーリーガーからも尊敬されている王さん。野球の実力だけでなく、その誠実な人柄は球界を問わず有名です。私は、今から20年以上前に、当時、巨人の監督だった王さんに握手していただき、サインをいただいたことがありました。その色紙と、一緒に撮っていただいた写真は私の宝物です。
 一方の岡田武史さんは、サッカー日本代表を2回務められた人。2回目の日本代表のときは、ベスト16進出を果たしました。その他、コンサドーレ札幌、横浜F・マリノスの監督も歴任されました。
 この対談集、すごくいいのです。宝の言葉がいっぱい詰まっています。
 スポーツや芸能の世界に限らず、どの世界でも、持って生まれた才能と運の良さで、若くして頂点に立つ人はいます。しかし、自分に厳しくして、精進し続けていかないと、輝きは失われてしまうものです。若くして成功をおさめてしまったがために、周りにチヤホヤされ、自分を見失い、結果、逆に転落してしまう人が少なくないのです。
 この二人は違います。
 選手時代から人一倍精進し、現役引退後も指導者として活躍し、それぞれの世界で重要な地位にあります。
 王さんも岡田さんも、経歴だけを見ると生まれながらのエリートで、一般人とは違うと思ってしまいがちです。でも、この本を読めば、そうでないことがよくわかります。二人とも、たくさんの壁にぶつかり、悩み、挫折し、それを乗り越えてきたのです。そうすることで、人間的に深みが増し、魅力ある人物になったということが、二人の言葉から伝わってきます。
 帯にかかれた言葉をいくつか紹介します。

◆右肩上がりの人生なんてない。常にジグザグに進んでいく
◆壁が大きいほどチャンスになる
◆迷う暇があったら、とにかく一歩踏み出す
◆目標は高ければ高いほどいい
◆人生は「出会い」で好転する
◆「運」は誰にでも平等に訪れる
◆分かれ道では直感に従う
◆すぐに結果を求めない

 この本の副題は、「壁にぶつかっている君たちへ」です。つまり、この対談集は、若い人たちへのメッセージになっているのです。
 尚朋スクールの塾生のみなさんには、是非、この本を読んでほしいと思います。できれば、自分のおこづかいで買ってもらいたいです。買うつもりだった何かを我慢してでも、この本を買って下さい。お年玉で買ってはいかがですか。
 たくさんの宝の言葉が詰まった本が、たった800円弱で自分のものになり、自分がレベルアップできるのです。安いものですよ。
 この本を読めば、みなさんの何かが変わる、と思います。

『Step By Step 1月号 第170号』 (2012年1月10日発行)より

雑念を捨てる!

 勉強に対して、前向きに頑張れている人がいます。その一方で、集中できず、いまひとつ頑張れていない人がいます。
 前向きに勉強ができない原因は、いくつかあります。
 体調が悪かったり、悩み事を抱えていたりしていては、勉強に集中できません。また、体力面で今の生活がギリギリという人も、勉強する意欲がわかないでしょう。
 そしてもう一つ、意外な原因があります。それは、雑念が多い場合です。

 友達のことが気になって仕方がないという人がいます。
友達の成績のこと、友達の使っている問題集や参考書、友達がどんな勉強をしているのか、友達が昨日何時まで勉強したのかなど、他人のことが気になって仕方がないのです。そのせいで、自分のことが疎かになっているのです。このような人は、友達やさまざまな情報に振り回されているといえましょう。しかし、本人はそのことに気づいていません。
 そして、このような人の特徴として、噂話が大好きです。また、同類の友人と弱音を吐き合い、お互いの傷を舐めて、不安から逃れようとする傾向があります。勉強に集中できない自分を直視しないようにしているのです。
 人のことが気になる→友達と噂話ばかりする→無駄な時間を過ごす→勉強に集中できない、勉強しない→結果が出ない→焦る→人のことが気になる→ ……。
 この繰り返しです。
 雑念が多い人は、このような悪い循環に陥って抜け出せないのです。当然、いいことなんて、ちっともありません。

 一方、友達のことなど気にせず、目の前の自分の課題に黙々と取り組んでいる人がいます。
雑念のない人は、すぐに結果が出なくても一喜一憂せずに、地道に努力を続けています。その結果、次第に成績が伸びていくのです。

 さて、みなさんはどちらのタイプでしょうか?
 もし、前者のタイプだとしたら、雑念を捨てるように心がけましょう。
 友達のことや、つまらない情報などは気にしないようにして、自分のすべきことに集中して下さい。
 そうすれば、いい回転が始まりますよ。
 キーワードは、「雑念を捨てる!」です。

『Step By Step 12月号 第156号』 (2010年12月10日発行)より

J・D・サリンジャーが亡くなって

 1月30日の朝刊に、J・D・サリンジャーの訃報記事がありました。享年91歳。自然死だったそうです。この記事を目にしたとき、「ついにその日が来たか」と思いました。
 サリンジャーは20世紀のアメリカ文学を代表する作家です。以下、新聞記事で彼の略歴を紹介しましょう。

 サリンジャーさんはポーランド系ユダヤ人とアイルランド系の両親のもと、1919年、ニューヨーク・マンハッタンに生まれた。10代で執筆をはじめ、40年、ストーリー誌に掲載された「若者たち」でデビュー。戦後、ニューヨーカー誌に発表した短編が評判になり、51年の「ライ麦畑でつかまえて」は大ベストセラーになった。成績が悪く高校を追い出された主人公の屈折した感情を、攻撃的な言葉で表現し話題になった。
 しかし身辺が騒がしくなったことを嫌った同氏は53年、突然、ニューハンプシャー州の田舎町で隠とん生活に入った。(後略)   「毎日新聞」(2010年1月30日)

 「隠遁」とは、俗世間を逃れてひっそりと隠れ暮らすことです。日本でいえば、『徒然草』の吉田兼好、『方丈記』の鴨長明などが隠遁生活を送っていました。
 サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』(野崎孝訳、1984年、白水社)は、私の愛読書です。初めて読んだのは大学1年生のときでした。その後、数え切れないほど読み返しました。
 大学3年生の夏休みに、約1ヶ月間、アメリカのモンタナ州立大学での語学研修に参加しました。これに参加したのも、『ライ麦畑』を読み、アメリカを肌で感じてみたいと思ったからです。もちろん、当時からいろいろと問題を抱えていた国でしたが、この頃までのアメリカは、元気があり、魅力的な国でした。今のアメリカからは、ちょっと想像がつかないかもしれませんが。
 この語学研修中に、地元のショッピングモールの中にあった書店で、『ライ麦畑』のペーパーバックス『THE CATCHER IN THE RYE』を、3ドル95セントで買ったのも懐かしい思い出です。 2003年には、村上春樹さんによる新訳『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(白水社)が出版され話題になりました。私個人としては、野崎孝さんの訳の方が好きです。
 この小説、発表されてから60年ほど経つのに、いまだに世界中で読まれているのです。永遠の青春小説なのですね。みなさんも、高校生になったら、是非読んでみて下さい。
 なお、野球を通して、古き良きアメリカを描いたファンタジー映画「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年)に出てくるテレンス・マン(映画の中では黒人)のモデルはサリンジャーです。
 この映画も、そして、この映画の原作『シューレス・ジョー』(W・P・キンセラ著、永井淳訳、文春文庫)もおススメの一冊です。是非、いつか読んでみて下さい。

『Step By Step 2月号  第145号』(2010年2月4日発行)より

弱気は最大の敵

 津田恒美という、すごい投手がいました。1980年代に広島東洋カープで、リリーフピッチャーとして活躍した選手です。
 山口県立南陽工業高校のエースとして、1978年に春夏連続で甲子園に出場した津田投手は、1981年にドラフト1位で広島に入団。プロ1年目の1982年には先発投手として11勝を挙げ、新人王を獲得しました。2年目以降は、中指の血行障害に悩まされたものの、大手術の後、1986年にリリーフに転向し、22セーブを挙げ、見事復活しました。その年のカムバック賞も獲得しました。
 そんな津田投手に、悲劇が襲いかかります。
 1991年4月に、悪性の脳腫瘍が見つかったのです。2年3ヵ月の闘病生活ののち、1993年7月20日に、32歳という若さで亡くなってしまいました。
 津田投手の投球スタイルは、打者に対して「剛速球で真っ向勝負」というものでした。
 全盛期の津田投手は、本当にすごく、打者はストレートが来ると分かっていても打てませんでした。
 当時、読売ジャイアンツの4番打者であった原辰徳選手(現監督)は、1986年9月24日に、津田投手と対戦しました。このとき、津田投手の剛速球をかろうじてファール・チップにした原選手の手首は砕かれてしまいました。それほど、力のあるボールだったのです。
 リリーフとして津田投手がマウンドに上がると、「もう勝負は決まった」と思ったものです。たとえ広島ファンでなくても、津田投手のピッチングは、見ていて、とても気持のいいものでした。
 この津田投手、実は元来気が弱く、高校時代には、監督から「精神安定剤だ」と嘘を言われ、メリケン粉を渡されたこともあったそうです。
プロに入ってからも、自分の精神的弱さを克服すべく、“弱気は最大の敵”と書いたボールを肌身離さず持ち歩き、登板する前には、そのボールに向かって気合を入れていたそうです。
「剛速球の津田投手が」と思うと、びっくりします。

 さて、高校受験が刻々と迫っています。今の時期の中学3年生は、焦り、不安になり、つい弱気になってしまいがちです。しかし、弱気になってはいけません。弱気になっても良いことは一つもありません。では、不安を拭い去るためには、どうしたらよいのでしょうか。
答えは、志望校合格を信じて努力することです。一生懸命に勉強することです。
そして、もう一つ。“弱気は最大の敵” という言葉を思い出し、自分に気合を入れて下さい。
 学力は、入試直前まで伸びるのです。

『Step By Step 11月号  第130号』(2008年10月30日発行)より